高橋メンタルクリニック
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心が病気になるとはどういうことなのでしょうか。病的な心の状態の解明に、さまざまな理論や実証的研究があるものの、まだ科学的な完全な解明に至ってないというのが本当のところです。しかし、身体的な病気でも、原因がわかってないものはいくらでもあります。さらに、心のあり方が身体の病気に関わるケースはいくらでも報告されています。ですから、心が病気になることは、今のところは科学的に捉えられていなくても、身体的な病気になることと根本のところでは何ら変わりはないのです。

次に考えなければならないのは治療法についてです。原因がわからないから治療法がないかというと、そうではありません。たとえそれが対症療法であれ、人間の想像力と実践知から、さまざまな症状に有効な治療法が開発されて来た歴史があります。薬物療法も精神療法も行動療法も、さまざまな形で心の病に有効であることが実証されて来ています。とりわけ薬物療法の進歩は、症状の改善から精神科リハビリテーション、さらには社会復帰に向けての可能性を飛躍的に高めてきました。因みに、私の薬に対する姿勢は、薬で改善ないし治癒が望むことができるなら、積極的に使用してみたらどうか、というものです(その際、ある一定期間服薬し続けることが、心の病気をもった人には辛いことであること、すなわち、病気であって、さらに薬を服むことによって、そのつど病気を自覚せざるをえないこと、さらに薬の副作用があるということなどが、本人の苦しみを倍化しているということに充分の配慮を払ったうえでのことですが)。

では、さまざまな心の病のうち代表的なものを観て行きましょう。

この病気は、気分がゆううつになり、活動力も著しく低下し、喜怒哀楽の感情もわかりにくくなり、本人は過去の出来事にこだわり、後悔したりしているうちに、不眠、不安、いらいら、自殺念慮が出現してきて、不幸な結末に至ることもありうる病気です。時には、身体症状からはじまり、内科などで自律神経失調症と診断される場合もあります。

先にも書きましたが、昔はうつ病になりやすい性格傾向などが盛んに取り沙汰されましたが、今では、誰がこの病気になってもおかしくないといわれ始めています。年間自殺者が3万人を越えてから、とりわけ1998年には前年と比べて1万人以上の増加を示すようになってからは、ストレス社会におけるうつ病の遍在に目が向けられ、早期発見、早期治療の必要性がますます重要になってきています。

基本的にうつ病は、薬物療法と休養で治る病気です。われわれは、うつ病の抑うつ気分をある程度体験可能であるために、それを気のせい、一時的な不調とみなしがちですが、そうではありません。うつ病は「病気」であるということにしっかり目を向けてください。1回の経過は、およそ3~6ヶ月ですが、抗うつ薬の服薬はもう少し必要です。

この病態は、現在の国際疾病分類では、さまざまな特徴的な症状の一群に分類され、神経症という病名は消滅してしまっていますが、臨床的に使いやすい病名であることから、いまでも神経症というカテゴリーは巷では有効です。

この病態の基本は、「不安」と「恐怖」と「強迫」という3大症状に集約されるでしょう。パニック発作や外出時の恐怖(ひとりでは不安で外出できない。時には吐き気やめまいの症状がでる)や戸締りや清潔さを確かめなければ気の済まないという確認強迫は、皆さんもご存知のことでしょう。この状態は、いわば社会のなかで存在していくことが困難であること、すなわちある状況への適応不全から出来しているとみなすことができます。治療的には、薬物療法や精神療法や行動療法やカウンセリングによって不安の解消をめざします。

さまざまな症状がありますが、その中でも、幻覚と妄想が主たる症状になります。もう少し詳しく言うと、幻覚の中でも幻聴が圧倒的に多く、話しかけてくる、ないしは自分のことを誰かが話題にしている言葉による幻聴が目立ちます。妄想は、本来なら自分にしかわからない心の深奥の出来事が世間に筒抜けになってしまったり、逆に他人や外界の出来事が、普通なら起こらないかたちで本人の行動に影響を与えたりする体験(電波で伝えてくるとか本人の身体感覚の違和感を引き起こしたりする)が生じてきます。

さらに、無気力や集中力の減退をきたしたり、社会的にひきこもってしまったり、感情の反応が不適切になったりします。

このような症状がふつう1ヶ月以上続く場合、この病気を疑います。
治療的には薬物療法が第1選択になります。最近は、非定型抗精神病薬も登場し、この病気の特徴である発動性の低下にも効果があり、副作用も少ないといわれていることから、薬物療法の可能性の幅が増えつつあります。病状が安定してきたら、精神療法的アプローチが可能となり、さらには精神科リハビリテーションを行い、社会復帰、さらに社会経済活動への復帰を目指すことになります。

この病気もストレスによる再燃が問題になってきます。いかにストレスに対処(コーピングといいます)していくかが、薬物療法の維持と共に予後を決定しています。

症状の有無に関わらず、心の病気にも病感という前駆期があり、ひょっとしたら心の問題ではないかと思うことがあります。その機会を逃さずに、精神科のクリニックや病院を受診して、精神科医の意見を聞いてみてください。精神科の敷居が高くて、とおっしゃる方は、公的な機関に相談してみるのもよいでしょう。愛知県と名古屋市では、それぞれ精神保健福祉センターで電話相談を受けていますし、名古屋市の各保健所では精神保健福祉相談員という精神保健福祉専門職の人がいて、いろいろ相談に乗ってくれます。最初の治療チャンスを逃さないことが、さまざまな意味での心の病気への対処の秘訣であるのは、昔も今も変わらない真実と思います。

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